災害は、私たち全ての人々にとって大きな脅威です。
しかし、障がいのある方々にとっては、その影響はより深刻になる可能性があります。
避難の困難さ、情報へのアクセスの制限、そして必要な支援を得ることの難しさ。
これらの課題は、災害時に障がいのある方々の命を脅かす大きな要因となります。

私は長年、障がい者支援のNPO法人を運営してきました。
その経験から、災害時の備えと対応が、障がいのある方々の命を守る上で極めて重要だと実感しています。
この記事では、自助・共助・公助の観点から、具体的な支援方法と課題について深く掘り下げていきます。
一人ひとりの命を守るために、私たちに何ができるのか。
共に考え、行動するきっかけになれば幸いです。

災害時の備えと対応:自助・共助・公助の連携

自助:個人ができる備え

災害時の自助、つまり自分自身で行う備えは、障がいの有無に関わらず全ての人にとって重要です。
しかし、障がいのある方々にとっては、より細やかな準備が必要となります。

まず、避難計画の作成が不可欠です。
自分の障がいの特性を踏まえ、どのルートで避難するか、誰に助けを求めるかを具体的に決めておきましょう。
例えば、車椅子を使用している方なら、段差の少ない避難ルートを事前に確認しておくことが大切です。

次に、非常用持ち出し袋の準備です。
一般的な持ち出し品に加え、障がいに応じた必要物資を用意することが重要です。

以下は、障がいの種類別に必要な持ち出し品の例です:

  • 視覚障がいの方:白杖、点字器、音声時計
  • 聴覚障がいの方:補聴器予備電池、筆談用具、コミュニケーションボード
  • 肢体不自由の方:車椅子用手袋、スロープ、バッテリー
  • 内部障がいの方:常備薬、医療器具、緊急連絡先リスト

情報収集も自助の重要な要素です。
災害情報へのアクセス方法を複数確保しておくことが大切です。
テレビやラジオに加え、スマートフォンのアプリやSNSなど、多様な情報源を活用しましょう。

最後に、自身の状況を周囲に伝えることの重要性を強調したいと思います。
「助けて」と声を上げることは、決して恥ずかしいことではありません。
むしろ、自分の命を守るための賢明な行動です。
日頃から近所の方々と交流を持ち、災害時に支援が必要な点を伝えておくことで、いざという時の助けにつながります。

自助の備えは、決して完璧である必要はありません。
できることから少しずつ始め、定期的に見直していくことが大切です。
自分の命は自分で守る。
この意識を持ち続けることが、災害時の生存率を高める第一歩となるのです。

共助:地域社会の役割

災害時、個人の力だけでは限界があります。
そこで重要になるのが「共助」、つまり地域社会による支援です。
私がNPO法人を運営する中で実感したのは、この共助の力が障がいのある方々の命を守る大きな鍵となるということです。

避難支援は共助の中核を成します。
近隣住民による直接的なサポートは、特に移動に困難を抱える方々にとって命綱となります。
例えば、私たちの地域では、定期的に避難訓練を実施し、障がいのある方々と支援者のペアを作っています。
これにより、いざという時の動きがスムーズになります。

情報伝達も共助の重要な役割です。
地域のネットワークを活用することで、より細やかな情報共有が可能になります。

情報伝達手段特徴活用例
回覧板確実に手元に届く避難所情報の共有
SNSグループリアルタイムで情報共有可能緊急時の連絡手段
防災無線広範囲に一斉伝達可能避難指示の発信
声かけ直接的なコミュニケーション個別の安否確認

見守り活動も共助の重要な要素です。
日常的な声かけや訪問を通じて、孤立を防ぐことができます。
私たちのNPO法人では、「おはよう見守り隊」という取り組みを行っています。
毎朝、地域のボランティアが障がいのある方々の自宅を訪問し、安否確認を行うのです。

こうした活動は、災害時だけでなく平時から行うことが大切です。
なぜなら、日常的な関係性が災害時の迅速な対応につながるからです。
例えば、ある聴覚障がいのある方は、普段から近所の方とLINEでやりとりをしています。
災害時、この関係が避難の呼びかけにつながり、無事に避難所へ到着できたのです。

共助の力を高めるには、地域の「顔の見える関係づくり」が欠かせません。
町内会や自治会の活動に積極的に参加したり、障がいのある方々と地域住民が交流する機会を設けたりすることが重要です。
そうすることで、お互いを知り、理解し合える関係が築けるのです。

最後に強調したいのは、共助は決して一方通行ではないということです。
障がいのある方々も、自身の経験や知識を活かして地域に貢献できる場面があります。
例えば、視覚障がいのある方が暗闇での誘導のコツを教えてくれたり、車椅子ユーザーが地域のバリアフリーマップ作成に協力したりと、様々な形での参加が可能です。

共に支え合い、共に生きる。
この意識が、災害に強い地域社会を作り上げるのです。

公助:行政による支援体制

行政による支援、いわゆる「公助」は、災害時の障がい者支援において重要な役割を果たします。
私自身、元福祉課職員として、また現在NPO法人の運営者として、公助の重要性と課題を日々感じています。

避難所のバリアフリー化は、公助の最重要課題の一つです。
設備面では、スロープやエレベーター、多目的トイレの設置が不可欠です。
しかし、ハード面の整備だけでは不十分です。
支援員の配置や職員の研修など、人的支援も同様に重要です。

避難所の設備目的備考
スロープ車椅子でのアクセス確保勾配に注意
多目的トイレ介助者同伴での利用に対応オストメイト対応も
情報提供設備視覚・聴覚障がい者への情報保障電光掲示板、FM放送など
間仕切りプライバシー確保、静寂空間の確保感覚過敏の方への配慮

個別支援計画の策定も公助の重要な役割です。
これは、障がいのある方一人ひとりのニーズに合わせた避難計画を事前に作成するものです。
私が関わった事例では、人工呼吸器を使用している方の避難計画を作成しました。
医療機関との連携、電源確保の手段、搬送方法など、細かな点まで決めておくことで、いざという時の混乱を最小限に抑えることができました。

情報提供の面では、多言語対応に加え、手話通訳や点字資料の準備など、多様な手段での発信が求められます。
私たちのNPO法人では、行政と協力して「やさしい日本語」を用いた防災パンフレットを作成しました。
これは、知的障がいのある方や外国人の方にも分かりやすいと好評です。

しかし、公助には課題もあります。
予算の制約や、縦割り行政による連携の難しさなどが挙げられます。
また、支援の「画一化」も問題です。
障がいの種類や程度は千差万別です。
個別のニーズに柔軟に対応できる体制づくりが今後の課題となっています。

一方で、公助の限界を補う取り組みも始まっています。
例えば、民間企業やNPO法人との協働です。
私たちのNPO法人も、行政と連携して障がい者向けの防災セミナーを定期的に開催しています。
こうした官民連携の取り組みが、より包括的な支援につながると考えています。

最後に強調したいのは、公助は決して「与えられるもの」ではないということです。
私たち市民が声を上げ、必要な支援を要求していくことが大切です。
同時に、公助の取り組みに積極的に参加し、フィードバックを行うことも重要です。
そうすることで、より実効性のある支援体制が構築されていくのです。

公助は、自助・共助と相まって初めて真価を発揮します。
三者の連携を強化し、誰一人取り残さない防災体制の構築を目指していく必要があるでしょう。

具体的な支援事例と課題

災害時の障がい者支援は、理論だけでなく実践が重要です。
私がNPO法人で経験した具体的な支援事例と、そこから見えてきた課題について共有したいと思います。

まず、聴覚障がいのある方への情報提供について。
2018年の西日本豪雨の際、避難所での情報伝達に大きな課題がありました。
放送や口頭での案内が主で、聴覚障がいのある方々が情報から取り残される事態が発生したのです。
この経験を踏まえ、私たちは以下の対策を講じました:

  • 手話通訳者の常駐
  • 電光掲示板の設置
  • 筆談ボードの配備
  • 災害情報アプリの開発と普及

特に、スマートフォンを活用した災害情報アプリは効果的でした。
テキストや画像で情報を提供することで、聴覚障がいのある方々も迅速に情報を得られるようになりました。

視覚障がいのある方への避難誘導も重要な課題です。
2019年の台風19号の際、視覚障がいのある方が避難所にたどり着けず、危険な状況に陥る事例がありました。
この教訓を活かし、以下の取り組みを行いました:

  • 音声ガイドシステムの導入
  • 点字ブロックの増設
  • 地域ボランティアによる個別誘導体制の構築
  • 触知案内図の作成と配布

特に効果的だったのは、地域ボランティアによる個別誘導です。
日頃から顔の見える関係を築いておくことで、災害時にスムーズな支援が可能になりました。

車椅子利用者へのバリアフリー対応も大きな課題です。
避難所のバリアフリー化は進んでいますが、まだ十分とは言えません。
私たちが取り組んでいる対策は以下の通りです:

  • 仮設スロープの配備
  • 簡易エレベーターの設置
  • バリアフリートイレの増設
  • 車椅子対応の避難スペースの確保

課題として挙げられるのは、予算の制約です。
全ての避難所を完全にバリアフリー化するのは現実的に難しい面があります。
そこで、重点的に整備する避難所を選定し、そこに資源を集中させるという方針を取っています。

知的障がいのある方への個別支援も重要です。
災害時の混乱した状況下では、特に丁寧な対応が必要になります。
私たちが実践している支援方法は以下の通りです:

  • ピクトグラムを用いた視覚的な情報提供
  • 分かりやすい言葉での説明
  • 落ち着ける空間の確保
  • 家族や支援者との連絡体制の構築
  • 個別のコミュニケーションツールの活用

特に効果的だったのは、ピクトグラムを用いた視覚的な情報提供です。
避難所の案内板や注意事項を絵や図で表現することで、言葉の理解が難しい方でも直感的に情報を把握できるようになりました。

精神障がいのある方へのメンタルケアも重要な課題です。
災害によるストレスは、精神障がいのある方にとって特に大きな影響を与える可能性があります。
私たちのNPO法人では、以下のような対策を講じています:

  1. 専門家によるカウンセリングの実施
  2. ストレス軽減のためのリラックススペースの設置
  3. 服薬管理のサポート
  4. ピアサポートグループの形成
  5. 定期的な声かけと見守り

特に効果的だったのは、ピアサポートグループの形成です。
同じような経験を持つ人々が集まり、互いの気持ちを共有することで、孤立感の軽減につながりました。

災害時における情報アクセシビリティの課題も見過ごせません。
様々な障がいの特性に配慮した情報提供が求められます。

障がいの種類情報提供の工夫具体的な例
視覚障がい音声情報の充実音声ガイドアプリの開発
聴覚障がい視覚的情報の強化電光掲示板の増設
知的障がい分かりやすい表現やさしい日本語の使用
肢体不自由操作しやすい情報端末タッチパネル式の情報キオスク

これらの対策を講じることで、より多くの方々に必要な情報が行き届くようになりました。

避難所における医療ケアの確保も大きな課題です。
特に、人工呼吸器や透析などの医療的ケアが必要な方々への対応が重要になります。
私たちが取り組んでいる対策は以下の通りです:

  • 医療機関との連携強化
  • 避難所への医療スタッフの常駐
  • 医療機器用の電源確保
  • 衛生環境の整備
  • 医療情報の共有システムの構築

特に重要なのが医療機関との連携です。
災害時にスムーズな連携ができるよう、平時から定期的な情報交換や合同訓練を行っています。

これらの支援事例を通じて、私たちが学んだことは、「一人ひとりのニーズに寄り添うこと」の重要性です。
障がいの種類や程度は千差万別です。
画一的な対応ではなく、個別の状況に応じた柔軟な支援が求められます。

同時に、これらの支援を実現するためには、行政、医療機関、地域住民、そして当事者である障がいのある方々自身の協力が不可欠です。
多様な立場の人々が連携し、知恵を出し合うことで、より効果的な支援体制が構築できるのです。

私たちの取り組みはまだ道半ばです。
しかし、一つひとつの経験を積み重ね、改善を重ねていくことで、誰もが安心して暮らせる社会に少しずつ近づいていけると信じています。

このような取り組みは、私たちのNPO法人だけでなく、全国各地で行われています。
例えば、東京都小金井市を拠点とするあん福祉会という特定非営利活動法人も、精神障がい者の地域での自立生活と社会参加を支援する活動を展開しています。
こうした地域に根差した活動が、災害時の障がい者支援の基盤となるのです。

まとめ

災害時における障がい者支援の重要性について、様々な角度から見てきました。
自助・共助・公助の連携、具体的な支援事例、そして直面する課題。
これらを通じて、私たちが目指すべき方向性が見えてきたのではないでしょうか。

今後の課題と展望を考えると、以下の点が重要だと感じています:

  1. 当事者参加型の防災計画策定
  2. テクノロジーの積極的活用
  3. インクルーシブ教育による理解促進
  4. 地域コミュニティの強化
  5. 継続的な訓練と改善

特に強調したいのは、当事者参加型の防災計画策定です。
障がいのある方々自身の声を直接聞き、その経験や知恵を活かすことが、真に効果的な支援につながります。

私たち一人ひとりができることは何でしょうか。
それは、「関心を持ち続けること」だと私は考えています。
障がいのある方々の存在を意識し、その方々の視点に立って考えること。
そして、小さな行動から始めること。
例えば:

  • 地域の防災訓練に参加する
  • 避難所のバリアフリー化に関する意見を行政に伝える
  • 障がいのある方々との交流の機会を持つ
  • 災害時の支援ボランティアに登録する

これらの小さな一歩が、共生社会の実現への大きな一歩となるのです。

最後に、私の好きな言葉を紹介させてください。
宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の一節です。

東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ束ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ

この詩が示すように、誰かのために行動する勇気。
それこそが、災害に強い社会を作る原動力となるのです。

災害はいつ起こるかわかりません。
しかし、私たちにできる準備はたくさんあります。
一人ひとりの命を大切に。
そして、誰一人取り残さない社会を目指して。
共に歩んでいきましょう。

最終更新日 2025年7月7日