「制度はあるのに、どう活用したらいいのかわからない…」
介護と障がい者支援の制度が併存する中で、多くの家族が情報不足に悩んでいます。
私自身、母の介護を始めた当初は、複雑な制度の狭間で右往左往した経験があります。大阪の福祉の現場で20年以上携わってきた経験を持ちながら、いざ自分が当事者となると、どこに相談したらいいのかさえわからず途方に暮れたものです。
きっと、同じような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、介護と障がい者支援の制度を上手に組み合わせて活用する方法や、家族自身のストレスケアについて、実践的なヒントをお伝えしていきます。
介護家族が押さえておきたい障がい者支援の基本
支援制度の概要と利用のポイント
「介護保険と障がい者福祉制度、どちらを使えばいいの?」これは、支援の現場でよく耳にする質問です。
実は、両方の制度を併用できるケースも多いんです。例えば、65歳以上の方でも、障がいの特性に応じて障がい者福祉サービスを利用できる場合があります。
ここで、両制度の主な違いを見てみましょう。
┌──────────────┬────────────────┬────────────────┐
│ │ 介護保険制度 │ 障がい者福祉制度 │
├──────────────┼────────────────┼────────────────┤
│ 対象年齢 │ 原則65歳以上 │ 年齢制限なし │
│ 自己負担 │ 原則1割~3割 │ 原則1割 │
│ サービス内容 │ 介護中心 │ 自立支援中心 │
└──────────────┴────────────────┴────────────────┘
特に大切なのは、お住まいの地域の窓口を知っておくことです。大阪府内では、各市区町村に設置された福祉なんでも相談窓口が、制度の説明から申請手続きまでワンストップで対応してくれます。
実際に相談に行かれる際は、以下の点を整理しておくとスムーズです。
🔍 相談時の確認ポイント
- 現在利用しているサービスの内容
- 困っていることや必要なサポートの具体的な内容
- 医療機関からもらっている診断書や障がい者手帳の有無
障がい特性に応じた支援サービスの選び方
支援サービスは、障がいの種類や程度によって細かく分かれています。大切なのは、ご本人の「できること」と「支援が必要なこと」を明確にすることです。
私が医療系NPOで就労支援プログラムを担当していた時、ある視覚障がいのある方の事例が印象に残っています。最初は「何もできない」と消極的だった方が、パソコンの音声読み上げソフトを活用することで、データ入力の仕事を担当できるようになりました。
支援プログラムは、大きく以下の3つに分類されます。
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◆ 主な障がい支援プログラム ◆
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【身体障がい】
└→ 自立訓練(機能訓練)
└→ 理学療法士等による身体機能の維持・回復訓練
└→ 在宅での生活動作訓練
【知的障がい】
└→ 生活介護
└→ 日中活動の支援
└→ 創作活動、生活能力向上訓練
【精神障がい】
└→ 就労移行支援
└→ 職業訓練、実習
└→ 就労に向けた準備・訓練
それぞれのプログラムには、専門スタッフが配置されています。例えば、就労移行支援では、職業指導員やジョブコーチが、仕事に必要なスキルの習得から職場環境の調整まで、きめ細かなサポートを行います。
介護家族のストレス軽減に役立つ工夫
日常生活に取り入れるメンタルケアとリフレッシュ法
「自分の時間が持てない」「ストレスが溜まる一方」。
これは、多くの介護家族から聞く声です。実は、関西には素晴らしい互助の文化が残っています。
私の住む大阪・堺市では、ご近所どうしの「お互いさま」の精神が、介護家族の大きな支えとなっています。例えば、向かいのおばあちゃんが「ちょっと様子見てくるわ」と声をかけてくれる。そんな小さな心遣いが、心の余裕を生み出すんです。
日々の生活の中で、以下のような小さな習慣を取り入れてみましょう。
💡 心の余裕を作る小さな習慣
朝は、介護を始める前に深呼吸を3回。窓を開けて、清々しい空気を胸いっぱいに吸い込みます。これだけでも、心持ちが違ってきます。
夕方には、5分でもいいので自分だけの時間を作りましょう。お気に入りの音楽を聴く、ストレッチをする、好きな雑誌を読む。こういった小さな贅沢が、大きな気分転換になります。
私の場合は、DIY好きが高じて、自宅のバリアフリー改装を少しずつ進めています。手すりの取り付けや段差の解消など、作業そのものがストレス解消になりますし、完成時の達成感は何物にも代えがたいものです。
専門家との連携で安心感を高める
介護支援専門員(ケアマネージャー)は、家族にとって心強い味方です。でも、「どこまで相談していいのか分からない」という声もよく聞きます。
私の経験から言えば、些細なことでも相談してOKです。むしろ、早めに相談することで、問題が大きくなる前に対処できることが多いんです。
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▼ 専門家との連携の輪 ▼
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┌─── ケアマネージャー ───┐
│ └→ サービス調整 │
│ └→ 相談支援 │
▼ ▼
地域包括支援 ←→ 社会福祉協議会
センター └→ ボランティア
│ │
└─────── 連携 ────────┘
特に、地域包括支援センターは、介護と障がい者支援の両方に精通した職員が常駐していることが多く、制度の狭間にある課題の解決に力を発揮してくれます。
事例紹介:情報格差を乗り越えた家族たち
成功事例1:就労支援を活用して負担を軽減
私が医療系NPOで出会ったAさん(34歳・精神障がい)のケースをご紹介します。この事例は、あん福祉会をはじめとする障がい者就労支援団体が実践している、個別ニーズに応じた支援プログラムの有効性を示す好例です。
Aさんは統合失調症の診断を受け、70代の母親と二人暮らし。
ここで効果を発揮したのが、多職種連携によるトータルサポートです。
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◆ Aさんを支えたサポートネットワーク ◆
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【医療】
└→ 主治医・訪問看護
└→ 症状の安定化
└→ 服薬管理支援
【福祉】
└→ 就労移行支援事業所
└→ ビジネスマナー習得
└→ パソコンスキル向上
【介護】
└→ ケアマネージャー
└→ 母親の介護プラン
└→ デイサービス調整
特筆すべきは、Aさんの「できること」に焦点を当てたアプローチです。パソコン作業が得意だったAさんは、データ入力の仕事からスタートし、現在は在宅ワーカーとして安定した収入を得ています。
成功事例2:地域コミュニティと連携したサポート
堺市在住のBさん(45歳・身体障がい)の事例も、地域の力を活かした好例です。
脳梗塞の後遺症で車椅子生活となったBさんは、高齢の父親の介護も担っていました。当初は「迷惑をかけたくない」と支援を受けることに消極的でしたが、自宅の改装をきっかけに状況が大きく変わりました。
私も関わった玄関スロープのDIY作業には、近所の大工さんが「これならワシも手伝えるわ」と参加してくれました。この経験から、地域のボランティアグループが結成され、現在では定期的な声かけや買い物支援など、インフォーマルな支援の輪が広がっています。
特に効果的だったのは、地域の体操教室への参加です。父親はデイサービスを利用する時間に、Bさんは体操教室に参加。これにより、
- 適度な運動による身体機能の維持
- 新しい仲間との出会い
- 介護の合間のリフレッシュ
という一石三鳥の効果が得られました。
家族が長く続けられるケアのために
相談先や家族会の活用で「ひとりで抱え込まない」
介護と障がい者支援の両方に携わる中で、最も重要だと感じるのは「ひとりで抱え込まない」ということです。
実は、大阪府内には数多くの家族会やピアサポートグループが存在します。オンラインで参加できる交流会も増えてきました。
⭐ 活用したい相談窓口・交流の場
- 市区町村の障がい者相談支援センター(対面・電話相談)
- 地域の介護者家族の会(定期的な茶話会)
- SNSを活用した介護者コミュニティ(24時間いつでも相談可能)
私自身、母の介護を始めた時に家族会で多くの知恵をいただきました。「こんな工夫をしています」「あの制度を使うといいですよ」。同じ立場の方との何気ない会話が、具体的な解決策につながることも多いんです。
介護と仕事、家庭を両立させるコツ
「仕事も大切だけど、介護も疎かにはできない…」
このジレンマを抱える方は本当に多いですね。でも、工夫次第で両立の道は必ずあります。
私が取材した中で印象的だったのは、IT企業に勤務するCさん(48歳)のケース。知的障がいのある弟さんと要介護の母親の支援を担いながら、フルタイムで働き続けています。
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▼ Cさんの1日のスケジュール ▼
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07:00 └→ 起床、弟の身支度サポート
08:00 └→ 弟を作業所へ送り出し
08:30 └→ 母のヘルパー到着確認
09:00 └→ 在宅勤務開始
16:00 └→ 母のデイサービス帰宅
17:00 └→ 弟の作業所お迎え
18:00 └→ 夕食準備・介助
21:00 └→ 就寝準備サポート
22:00 └→ 翌日の準備・自分の時間
Cさんが実践している両立のポイントは、以下の3つです。
📝 両立のための3つのポイント
- 制度を最大限活用する
在宅勤務制度、介護休暇、時短勤務など、利用できる制度は積極的に活用。 - 「完璧」を目指さない
「これくらいならお任せできる」と割り切って、支援者に任せる部分を作る。 - 「助けて」が言える関係づくり
職場の上司や同僚、地域の支援者に、困った時は躊躇なく相談。
特に重要なのは、「お願い上手」になることです。介護や障がい者支援の場面では、「申し訳ない」という気持ちが先立ってしまいがちです。でも、適切な支援を受けることは、決して恥ずかしいことではありません。
むしろ、「ここは手伝ってもらおう」と決めることで、自分にしかできない大切なケアに集中できるようになるんです。
まとめ
ここまで、介護家族が活用できる障がい者支援の情報をお伝えしてきました。
20年以上、福祉の現場で働いてきた私が最も伝えたいのは、「情報を得ることは、希望を得ること」だということです。
母の介護を通じて私自身が実感したように、制度やサービスを知り、適切に活用することで、家族の負担は確実に軽減できます。
でも、それ以上に大切なのは、「自分らしいケア」を見つけることです。完璧を目指すのではなく、自分と家族にとってちょうどいい支援の形を探していく。そのプロセスこそが、長く続けられるケアの秘訣なのではないでしょうか。
まずは一歩、お近くの相談窓口に足を運んでみませんか?
きっと、あなたの「想い」に寄り添ってくれる支援者が見つかるはずです。私たち専門職は、その第一歩を踏み出す勇気を、いつでも応援しています。
最終更新日 2025年7月7日